2017年10月5日木曜日

腸管出血性大腸菌による食中毒について



腸管出血性大腸菌による食中毒が流行中


8月中旬に埼玉県や群馬県の同系列の総菜店で販売されていたサラダ類を摂取した方々が、腸管出血性大腸菌O157に感染するという集団食中毒が発生しました。そして、この集団食中毒は、日を追う毎に感染者数が増加し、この内、同店の炒め物を食べられた3歳の女児が『溶血性尿毒症症候群(HUS)』を発症し、今月に入り亡くなってしまうという悲しく悲惨な事故に繋がってしまいました。
又、この事例とは別に全国の焼肉店や、レストラン、居酒屋などの飲食店でも腸管出血性大腸菌の内のO157を原因物質とする食中毒事故が、相次いで発生しており、テレビやインターネット等で連日報道されています。<表1> 
この腸管出血性大腸菌類による集団食中毒については、過去から、度々発生しており、1996年に岡山県や大阪府の学校給食で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒や、2011年に、富山県、福井県、神奈川県の焼肉チェーン店のユッケ等で発生した腸管出血性大腸菌O111による集団食中毒。更には2012年と、2014年に北海道や静岡県等で発生した浅漬けや、2016年には静岡県の食品会社で製造された冷凍メンチカツで発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒で、多くの人が感染し死者も出たという食中毒事故は記憶に新しいニュースであります。


食中毒を引き起こす病原性大腸菌

大腸菌は、腸内細菌としてヒトや動物の腸管内に常在し、土壌や水などの自然界に広く分布しています。そして、その多くは病原性を保有していません。しかし、一部の大腸菌は、病原性大腸菌と称されており、食中毒や急性胃腸炎の原因物質になっています。又、腸管出血性大腸菌による食中毒は、汚染食品を摂取し、腸管内で感染・増殖することで引き起こされる感染型食中毒であり、病気の発症(発病)の仕方によって5種類に分類され、又、3類感染症としても指定されています。

①腸管侵入性大腸菌(EIEC)
大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層に糜爛(びらん)と潰瘍を形成する結果、発熱を伴った赤痢様の激しい症状を引き起こします。

②腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生する結果、発熱を伴った腹痛と水溶性の下痢を引き起こします。

③腸管出血性大腸菌(EHEC)
ベロ毒素を産生し、発熱を伴った激しい腹痛、水溶性の下痢、血便などを引き起こします。特に小児および高齢者では、溶血性尿毒症や脳症を引き起こします。

④腸管病原性大腸菌(EPEC)
小腸に感染して腸炎等を引き起こします。

⑤腸管凝集接着性大腸菌(EAEC)
主として熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く小児などの下痢の原因菌となります。わが国ではまだ殆どこの菌による患者発生の報告はありません。
 これら病原性大腸菌のうち、国内で発生している食中毒の多くは、③腸管出血性大腸菌(EHEC)によるものですが、血清型により分類され、その代表的なものはO157で、その他にO26、O111、O145などが知られています。


腸管出血性大腸菌O157の特徴

腸管出血性大腸菌O157は、家畜(牛、豚、羊)の腸管内に腸内細菌として生息しており、家畜の解体処理時に腸管を傷つけてしまった場合に、腸管内容物が食肉に付着し、汚染の原因になったり、ヒトまたは家畜の糞便によって、水(井戸水など)や土壌が汚染され、それらを用いて栽培された野菜などが汚染されたり、これら本菌に汚染された食品を十分な加熱や薬剤による殺菌処理も施さずに、摂取することで感染し、食中毒を発症する事に繋がります。又、他にも患者や健康保菌者の糞便からも、ヒトの手指を介して経口感染したり、二次的に汚染された食品を摂取する場合でも感染し、発症すると言われています。

 

食材は十分な洗浄と殺菌を!!

①食肉は中心部を75℃で1分以上加熱する。
②生食用の野菜類や果実は、良く洗浄を行い、高齢者や若齢者に食事を提供する場合は、次亜塩素酸ナトリウム等(亜塩素酸水、亜塩素酸ナトリウム溶液、過酢酸製剤、次亜塩素酸水並びに食品添加物として使用出来る有機酸溶液)で殺菌処理する。

二次汚染対策の徹底を!!

 
①必ず流水・石けんによる手洗いを2回行い、消毒用アルコールをかけて手指の消毒を行う。(作業開始前、汚染区から非汚染区への移動時、食品に触れる作業直前、生肉や魚介類、卵殻等に触れたあとに、他の食品に触れる場合)

②使い捨て手袋は都度々交換する。(手指の洗浄・消毒と同タイミング)

③包丁やまな板等の器具・容器やシンク等は食品・用途別に区分けして、使用する。(下処理用:魚介類、食肉類、野菜類。調理用:加熱調理済み、生食野菜用、生食魚介類用に区分け)

④食材の下処理は汚染作業区域で確実に行い、非汚染区域を汚染させない。(交差汚染を防止する)

⑤調理で使用した器具・機械・容器等は、良く洗浄したのち、85℃で5分以上の加熱又は、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水等)やエタノール系の消毒剤で十分殺菌してから乾燥させる。

⑥ドアノブ等のヒトの手指が触れる設備やトイレは業務開始前、業務中及び業務終了後に、定期的に、清掃と消毒剤による消毒を行うこと。

まとめ
 腸管出血性大腸菌O157は10~100個という少ない菌量でも感染し、食中毒を発症します。その為、調理器具類や設備類、施設内のドアノブや取っ手等、人が多く触れる箇所に、僅かでも本菌が付着していると、作業者や調理従業者の手指が汚染され、これが結果として食品に移行し、この食品を摂取する事で感染してしまいます。然るに単純に消毒しているから大丈夫というのではなく、適切な洗浄や除菌処理が必要な場所や物に必要に応じて講じられていなければ、効果が発揮される事も、感染を防止する事も、食中毒が収まる事もありません。しかも近年では、化学肥料ではなく、牛糞や鶏糞等を利用した有機発酵肥料で栽培された農産物の販売や、これら有機農産物を用いた加工食品の製造も増加傾向にあり、糞便由来の本菌を含む病原性大腸菌に汚染された野菜や果物が入荷してくる可能性も高まりつつあり、これを洗浄もせず殺菌処理も施さず、そのまま摂取する事は、非常に危険な行為だと言わざるをえません。そこで、これら腸管出血性大腸菌を含む病原微生物類による食中毒事故を、未然に防ぐ為にも、『大量調理施設衛生管理マニュアル』や、これに伴う関連法令や、規範等の内容を、大規模な食品加工施設だけに留めず、今回、食中毒事故が発生したバックヤードを保有している食品販売店や、飲食店の厨房等の中小規模の施設にも適用されるべきであり、食品を取り扱い提供している全ての施設で、原材料の洗浄と殺菌処理を奨励すると共に、器具・機材類や、施設・設備等の洗浄と除菌処理の強化と、二次汚染対策には、塩素系消毒剤による除菌処理の重要性をもっと強く訴えるべきだと考えています。そして、これから迎える冬場でも食中毒は発生します。だからこそ今、更なる衛生管理体制の強化を図られては如何でしょうか?

SANKEI NEWS Report 9月号 PDF版↓
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