2017年7月6日木曜日

カット野菜及びカットフルーツ類の酵素的褐変と制御について


カット野菜及びカットフルーツ類の「酵素的褐変」
食品の褐変には、酵素の作用によって発生する「酵素的褐変」と、「非酵素(化学)的褐変」があります。リンゴやレタスをカットして放置しておくとカット断面が茶色や赤色に変化する現象が「酵素的褐変」であり、マグロの刺身や牛肉の色調が徐々に黒ずむ現象や、糖類の加熱によるカラメル化反応やメイラード反応が「非酵素(化学)的褐変」と呼ばれています。特に近年ではカット野菜やカットフルーツ類の需要が急増しており、これら製品の流通販売中に、「酵素的褐変」が発生すると、見栄えを著しく低下させてしまう為、この現象を如何に制御するのかが大きな課題となっています。
酵素的褐変の発生メカニズムは、野菜や果物に含まれるフェノール類(ポリフェノール)が、ポリフェノールオキシターゼ(フェノール類を酸化させる酵素)によって酸化され、キノン類を生成し、この酸化により生成されたキノン類が重合する事で、褐色色素を生成し、発生します。<図1>
尚、このフェノール類とポリフェノールオキシターゼは局在性があり、通常の生体内では接触する事がなく褐色反応は起こりません。但し、カットや潰すなどの調理加工を施したり、栽培中に虫や鳥が傷つける等によって、植物細胞が破壊され互いが接触し、褐変反応が始まります。<図2>
又、酵素的褐変は、リンゴのように直ぐに褐変する即時型と、カットレタスの様に褐変に数日掛かる遅延型が存在し、この違いは組織内のポリフェノール量に起因します。そのため遅行型のレタスでは、元々含有量の少ないポリフェノール類が保存期間中に新たに生合成され、これがポリフェノールオキシターゼの酸化力によって褐色します。
尚、野菜及び果物中に多く存在している基質は、カテキン類、クロロゲン酸類であり、アミノ酸であるチロシンも基質となります。
リンゴに含まれる主要なポリフェノールは、クロロゲン酸であり、200mg/100g程度存在している様です。又、レタスはクロロゲン酸の他にコーヒー酸と酒石酸がエステル結合したチコリ酸も多く含まれている様です。





カットレタスの褐変
カットレタスの保存期間中の褐変現象については、レタス中には、僅かしかポリフェノール類は存在していません。しかしながら、カット等処理することで、レタスが傷害誘導反応を起こし、酵素の活性が進んでしまいます。この活性した酵素により、ポリフェノール類が誘導的に合成され、この生成したポリフェノール類が、次々にポリフェノールオキシターゼによって酸化され、褐変反応が発生すると言われています。このためカットレタスの褐変現象には、新たなポリフェノール類の生合成が必要となります。この事から、カットレタスを含む遅延型の酵素的褐変を制御するためには、生合成されるポリフェノールを増やさない事が必要になります。


酵素的褐変の制御方法
この酵素的褐変を防止する方法として、<参考2>の様な手段があります。
但し、加熱するなど、野菜や果物をカットし、生のまま流通販売する製品類では導入する事そのものが非現実的な方法も多く、最終製品に適した手段を検討して頂く必要があります。


塩素酸化物による酵素失活作用
次亜塩素酸ナトリウムを始めとした塩素酸化物は、その酸化力により、タンパク質を変性させる力を持ち、多くの酵素はタンパク質を基に構成されているため、塩素酸化物による殺菌処理を施して頂く事で、同時に酵素活性を失活させる事ができます<図3>。但し、カットレタスの褐変反応の原因である酵素を失活させるために、単純に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水などの希釈液に浸漬処理するという方法では効果が得られにくく、ある一定の塩素濃度や接触時間が必要であり、その条件次第では塩素臭味の付着や、浸漬処理を行うことによる、葉の萎れやべたつき等と言う弊害も発生しやすくなるので、十分な注意が必要です。


まとめ
近年カット野菜やカットフルーツ類の需要が増加していますが、製品の流通販売中に酵素的褐変が発生し、見栄えを著しく低下させてしまう為、この現象を制御する事が一つの課題になっています。
 また、この酵素的褐変は、野菜や果物中に含まれているフェノール類が、カット処理などを行い植物細胞が破壊される事で、同じく野菜や果物中に含まれるポリフェノールオキシターゼ(酵素)と接触し、酸化する事で発生する現象であり、この褐変現象の制御方法として、「酵素を失活させる」、「酵素反応を抑える」、「酸素を除く」、「還元剤や酵素阻害剤を使用する」などの手段があります。
 しかしながら、カット野菜や果物に対して使用可能な手段として適切なものは少なく、これら最終製品に適した制御方法を選択して頂く必要があります。又、同時にカット野菜やカットフルーツ類の流通保存状況を考えた場合、微生物制御も考慮しておかなくてはなりません。
従いまして、今後は食品加工会社だけでなく、街の飲食店などもHACCPの導入が義務化され、ますますカット野菜やカットフルーツ類の需要が増加する可能性を秘めています。この事に伴い、遠方への販路拡大や賞味期限の延長などを検討される際の酵素的褐変を制御する手段の一つとして、塩素酸化物の酵素失活作用を利用した方法について、一度検討されてみられるのはいかがでしょうか?

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