2017年6月21日水曜日

国内の食品流通加工業界における今後の農産物の調達基準について


GAPとは
スーパーなどで生鮮野菜や果物を購入する際、何を基準に選ばれていますか?国産品?農薬や化学肥料などを使わずに生産された有機JAS品?伝統的な方法で生産された地場の特産品ですか?その理由は様々だと思います。
その一方で、まだ馴染みが薄いのですが、海外のスーパーや飲食店、食品工場などでは、『GAP(Good Agricultural Practice)』という基準を農産物を仕入れる際に利用しています。尚、このGAP認証を受けている生産者や団体は世界各国に多数存在し、事実上の国際規格として利用されています。
そしてこのGAPは、適正農業規範または農業生産工程管理と訳され、農業生産現場において、食品安全、労働安全、環境保全、人権などを同時に達成しながら、持続可能な農業を実践していくことを求める国際認証であり、簡単に説明しますと、食品工場では既に当たり前になっているHACCP(危害分析重要管理点)の考え方や手法を、農業の現場に導入したものになります。


GAPの種類と国内の取得状況
現在、世界には様々な分類のGAPが存在していますが、その内、国内の生産者や団体等が取得しているGAPは<表1>の通りです。
また、農林水産省の調査では、国内のGAP導入状況は全体の62%がなんらかのGAPを導入しています。しかしながら、その内、グローバルマーケットで活用出来るGLOBAL.GAPは、世界124カ国、約16万件(平成28年1月現在)の認証取得件数がある一方で、国内での認証取得件数は340件(平成28年3月末現在)しかなく、主に青果物や日本茶等、海外へ輸出されている農産物で取得されているケースが多い様です。
この事から農林水産省としましても、官民一体となった農林水産物・食品の輸出促進を行う上で、輸出先となる国や事業者等から求められるGLOBAL.GAP等の認証取得を推進しており、又、同時に国際的な取引にも通用するGAPに関する規格・認証の仕組みの構築(日本発の輸出用GAP≒J.GAP)を進めています。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会の調達基準
なお、このGAPは2020年に開催されます、東京オリンピック・パラリンピック競技大会で選手やサポート・ボランティアスタッフ等に提供される食事の原材料の調達基準としても定められています。<図1>
このため、東京オリンピック・パラリンピック競技大会で、組織委員会から選定されたケータリング事業者に対して、生鮮野菜やその他加工品等を販売するとした場合、このGAP認証が取得されている事が必須事項として求められます。









GAPとGFIS(Global Food Safety Initiative) について
世界的に有名な飲食メーカーやスーパー等は、世界中から農産物を始めとする食材を調達しています。その際、調達する食品の安全性を確保することが重要になります。そこで、これらの企業はGFSI(世界食品安全イニシアチブ)という国際組織を作り、独自の規格基準を設け、その仕組みを提供しており、この際の代表的な制度の一つとしてもこのGAPは利用されています。また、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)とは、世界各国の小売業・食品メーカーで構成されるTCGF(国際消費財流通組織)傘下の食品安全の推進母体であり、サプライチェーンを通じて食品の安全について協働し、知識を交換・共有し、グローバルスタンダードを策定しています。
なお、このGFISの承認を受けた認証制度は『GFIS承認スキーム』と呼ばれ、食品加工や農業などを対象にして、また、信頼に足る食品の安全の認証制度として、世界中で利用されています。
この事から、従来までは、仕入れ先を評価・管理・選別するためのスキームは、食品を取り扱う企業がそれぞれ任意に決めていましたが、今後は、GFIS承認スキームの認証であれば良い、もしくはGFIS承認スキームである事が最低条件になるという方向に向かっています。
しかも、GFISでは、評価の手順や基準を示したガイダンス・ドキュメント(全4部構成)を公表し、このスキームに基づき評価をしており、このガイダンスの中で、各分野の内、A(畜産物、水産物の生産)、B(植物、穀類、豆類の生産)、D(植物性食品、ナッツ類、穀類の前処理)、E(要冷蔵生鮮食品の処理)及びL(化学物質、生化学物質の製造)についてマネジメント、生産工程管理(GAP及びGMP)、HACCPに関する要求事項等が示されています。
まとめ
GAP認証制度は、日本国内ではまだ馴染みが薄いのですが、世界的に見ますと欧州を中心に、大手小売業者等と取引を行う為の国際基準(≒GLOBAL. GAP)として認識されており、この取組はGFSIという食品の安全性を考える国際的な構想における具体的な手法の一つとして位置づけられています。
また、日本政府も官民一体となった農林水産物・食品の輸出を促進する上で、HACCP、ハラール、GLOBAL.GAP等の認証取得を推進しており、これは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会で提供される食事の原材料の調達基準にも必須事項として盛り込まれています。
しかし、今は農産物や食品の海外輸出を行う際の取引条件という認識が強く、これらの認証制度は、東京オリパラ大会以降、国内の食品加工流通業者にとっても、農産物を仕入れる際の取引条件として要求される可能性が高くなる事は必至です。また、水産物やその他の食品についても同様の認証基準が求められていく事も予測されます。
従いまして、今後は自社工場におけるHACCP認証だけでなく、仕入れ基準としてのGAP認証や、ハラール認証などに関する取組を進められ、世界的な食品の安全基準を満たした加工食品やサービスの提供を検討されてみられては如何でしょうか。

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