2016年10月19日水曜日

キュウリのイボに潜む常在生菌(Deso培地に検出されるシュードモナス属)

SANKEI NEWS Report 10月号 キュウリのイボに潜む常在生菌(Deso培地に検出されるシュードモナス属)

キュウリを原因食品とする食中毒

 ウリ科キュウリ属のキュウリは生食に適している白イボ系と漬物加工に適している黒イボ系の 2つに大きく区別されますが、現在、我々が食べているほとんどのキュウリは白イボ系のキュウリであり、その特徴的な白いイボにはたくさんの細菌が潜んでいると言われています。

 そして、このキュウリを生食することによって引き起こされた食中毒の事例は非常に多く、2014年に発生した“冷やしキュウリ“を起因とする O-157による大規模食中毒事件は記憶に新しいことと存じます。また、このキュウリが原因で発生した食中毒はサルモネラや O-157などいずれも二次汚染菌であり、キュウリに細菌が付着しやすく、しかも除去しづらいという特徴をあらわしています。

 なお、この原因と言われているキュウリのイボは元々が棘であり、キュウリが熟していく過程で、また、生産地から消費地まで輸送されてくる間に徐々に棘が無くなり、この白いイボに変化していきます。そしてこのイボには非常に多くの細菌が溜まっていると言われていますが、その実態を確認した資料は非常に少なく、キュウリの殺菌方法を検討する際にはこのイボの実態を確認しておく必要があります。


●1997年、25人が腸炎ビブリオによる食中毒●2002年、112人がO157による食中毒●2014年、518人がO157による食中毒


キュウリのイボに常在する細菌(シュードモナス属)

 キュウリのイボには細菌数が多いと言われていますが、実際にこのことを確認したデータはあまりなく、今回このキュウリのイボだけを取り出して検査してみましたところ、その結果が(図3)であります。
 そしてこの結果から、キュウリの表皮とキュウリのイボとでは 1オーダー程度の菌数差が確認され、イボだけの場合、デソキシコレート培地に特徴的な白色透明のコロニーを形成する細菌が多く確認され、本来の大腸菌群である赤色コロニーはさほど多くないことが判りました。
 
 そしてこの白色透明のコロニーはシュードモナス属であり、自然環境の至るところに多く存在していますが、特に汚染しやすい水回りに多く存在しており、バイオフィルムを形成し、低温でも増
殖する細菌であるということが知られており、他の細菌が好まない環境で存在することが多いとも言われています。その上、このシュードモナス属はバイ オフィルムを形成することに加えて元々が薬剤耐性が強く、さらに、キュウリのイボに存在することで殺菌剤が行き届きづらく(イボ内の空気の存在によって水が浸透しにくくなるからだといわれています。)10℃保管で 48時間あたりから急速に増殖し、また、デソキシコレート培地に現れてくることもシュードモナス属の特徴といえます。

 しかし、シュードモナス属は汚染が激しい水周りに多く存在している事から糞便由来系ではありませんが、汚染水が付着した形跡を示しているため、それ自体は食中毒菌ではなくても、汚染指標としてデソキシコレート培地に白色透明コロニーが検出された場合には、食中毒菌が混入している可能性が高い環境下で生産されたものだという事がわかり、注意が必要だという指標にもなりますことから、危害細菌に指定されている食品企業もあるようです。


土壌や河川、海、動植物の組織に分布しているグラム陰性好気性桿菌。
表皮よりもイボ部分の方が菌数3オーダー程度高いことがわかりました。



亜塩素酸水を用いたキュウリの殺菌処理

 シュードモナス属はバイオフィルムを形成し、薬剤耐性も強いため、薬剤を浸透させるための策を講じ、ある一定以上の浸漬時間をかけて浸透させる必要があると考えられており、主に浸漬時間による効果の差と、薬剤濃度を調整した上で殺菌テスト(図4)を実施してみることにしました。

 なお、試験では、次亜塩素酸水と亜塩素酸水を組み合わせた試験区と、亜塩素酸水を pH調整した試験区の2パターン実施し、殺菌後に水洗し、シュードモナス属の増殖が確認され始める10℃保管で 72時間保管することで、殺菌効果の差を比較してみました。

 その結果、シュードモナス属の測定を目的としたデゾキシコレート培地には殺菌効果に差異がみられ、浸漬時間を30分間に設定した試験区では、10℃保管で 72時間後でも、低菌数の状態のまま維持しているという結果が得られています。
 なお、今回の試験では、薬剤の違いと浸漬時間による効果の差を確認するために、中性洗剤を用いて、キュウリの表面は洗浄していません。また、数回の試験中にもキュウリの菌数のバラつ
きが発生し、野菜表面のワックス成分によっても、殺菌効果のバラつきが生じます。よって、表皮を除去しないタイプの生野菜の処理方法を検討する際には、殺菌処方の選定と同様に、前処理洗浄で表面にあるワックスの成分を除去しておくことはとても大切であり、かつ重要なことだということもわかりました。


水洗→カット→殺菌→水洗→脱水→検査


亜塩素酸水併用区では、他の試験国比べ、菌数の立ち上がりを抑えることができました。

亜塩素酸水併用区でも、キュウリの断面に変色等の変化は見られませんでした。



強い殺菌処理はキュウリを傷めることも・・・

 キュウリは傷み始めると中からピンク色に変色することは広く知られていますが、主にキュウリの中の白色ポリフェノールが低温保管によって変色するなど、そもそも日持ちする野菜ではなく、キュウリは見た目以上に傷みやすい野菜なのだと言えます。

 そのため、強い殺菌処理を施しますとスライス断面がピンク色に変色することもあり、例えば次亜塩素酸水 50ppmに亜塩素酸水を 400ppmで併用した験区において、キュウリのスライス断面がピンク色になるという現象が見られ、次亜塩素酸水 75ppmと亜塩素酸水 200~ 400ppmを使用した試験区のように強い酸化剤を加えすぎますと、変色しやすい野菜なのだということを知っておいて頂く必要があります。(図5)


過剰な殺菌条件下(強酸化環境下)では、キュウリのスライス面がピンク色になる現象がみられる場合があります。


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