2016年5月9日月曜日

日本酒の品質向上と袋香対策



SANKEI NEWS Report 4月号 袋香対策にともなう日本酒の品質向上について

日本酒の評価を低下させる臭気の問題


日本酒の官能評価には香味特性を表すいくつかの用語が存在しており、品質の劣化を表す項目の中には、成分中の物質が何らかの作用で変化する事によって発生する異臭があり、その代表的な表現の1つに「袋香」という言葉があります。なお、この「袋香」という言葉は、一般的には袋や綿の臭い等の事を指しますが、実際には、醪を搾る酒袋を使用した後、洗浄し、保管している間に発生してくる真菌(カビ)類によって生成される異臭、いわゆる、圧搾後に酒袋を洗浄し、乾燥し、保管し、これをそのまま次の仕込みに利用すると、古い衣類の臭気に似た臭いが圧搾した日本酒に付着してしまう事がありますが、この臭気(異臭)を表す言葉としてつかわれています。
しかも、この臭いは袋に付着していた微量の日本酒成分が保管中に酸化し、微生物、特に真菌類の増殖によって発生する複合臭だといわれており、実際には酸化臭・劣化臭等が複雑に絡んだ移り香の総称名です。
しかし厄介な事に、この袋香は製品として出荷された後、数日~数週間経過した後でないと確認されません。(出来立てではわからない)その為に大きな問題に発展してしまう事もあり、酒造メーカーでは大変困惑されている様です。従いまして、日本酒の品質向上の為には、この袋香が発生するメカニズムを解明し、制御する方法を確立しておく事はとても重要な事のようです。

袋香について

袋香は、酒袋に残留する微量の有機物の酸化と微生物が保管中に増殖する事によって発生すると言われており、使用後丁寧に、アルカリ洗浄剤で処理し、乾燥し、保管していても真菌類が残り、これらが増殖し、異臭が発生する事があるといわれています。 また、このしつこい臭気は何度洗濯しても取れない衣類で経験された事があると思います。
花王㈱安全性評価研究所(2011.5.26)によりますと、異臭を発する衣類に付着していた微生物を、滅菌済みのタオルに付着させたところ、異臭の原因物質が多量に検出される事がわかり、この事から考えてみましても、布製品の臭気と微生物は深く関わっているのだといえます。また、近年の日本酒の製造技術において微生物の利用はかなり進んでおり、それと同時に洗浄、殺菌、消毒等の微生物の制御方法も定着しつつあるといえます。

袋香対策と殺菌処理

酒袋で発生する袋香の原因を解消する手段として、脱臭処理や、殺菌処理などの対策が考えられ、そのために次亜塩素酸ナトリウムで処理していますと、逆に塩素臭の付着や塩素化合物の付着が懸念され、しかも、袋の繊維や圧搾袋の素材を傷めてしまい、結果として異物の混入にも繋がってしまいます。
そこで、この次亜塩素酸ナトリウムは酒造りの環境でその使用は避けられている場合が多く、その理由は次亜塩素酸ナトリウムと木材中のリグニンと反応して生成される2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)や2,4,6-トリクロロアニソールが日本酒の品質を下げてしまうようです。




塩素と有機物との化合物生成について


日本酒鑑評会において真菌類が関与している異臭が問題になるケースは多々ありますが、この真菌類の増殖によって発生するカビ臭の原因は、前駆体の 2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)が真菌類(カビ)によってメチル化し、2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)に変化するからだといわれており、T CPはそもそも木材に含まれている場合と、木材中のリグニンと次亜塩素酸ナトリウムが反応し、有機塩素化合物が生成される場合の 2通りあるようです。
 
独立行政法人酒類総合研究所のレポートでは、製麹関係の木材を使用した用具、麹室板壁の消毒には次亜塩素酸ナトリウムの使用は厳禁であると記されており、すべての塩素酸化物が TCPを生成するのか?それとも次亜塩素酸ナトリウムだけにみられる現象なのかに関するデータは不足しています。そこで、殺菌消毒剤メーカーの立場から木材と塩素酸化物との接触試験を実施してみることにしました。
 
まずはリグニンを豊富に含むスギ材と塩素酸化物による接触試験を行い、TCPの生成量の違いについて確認してみました。なお、先の独立行政法人酒類総合研究所からのレポートでは、次亜塩素酸ナトリウム 1200ppmに 20分間接触させると TCPは1300ppb(スギ材 1g当たりの含有量)以上検出(表1)されており、同様の方法で「次亜塩素酸ナトリウム」と「亜塩素酸水」を用いて TCPの生成量の違いについて確認してみました。(表2) その結果、亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと比較しますと、1/25の生成量しかなく、塩素の種類によって有機塩素化合物(TCP)の生成量は大幅な違いがあるというデータが得られ、元々自然のスギ材には、微量の TCPが含まれていますが、塩素の種類によってはほとんど TCPを生成しない可能性も期待されており、特に亜塩素酸はトリハロメタンやクロラミンを発生させづらいことが知られています。


ブランク:17.3ng、オスバン:28.1ng、次亜塩素酸Na:1308.5ng次亜塩素酸Na:75ng、亜塩素酸水:3ng













「亜塩素酸水」を用いた袋香対策

「亜塩素酸水」は有機塩素化合物の生成量が少なく、日本酒製造環境で安心して使用できる塩素酸化物の一つであり、この「亜塩素酸水」を用いて袋香対策を講じる際には、200~400ppmの亜塩素酸水液を作成(尚、この液の有効残留塩素濃度:酸化力は、必ず確認すること。)し、これを圧搾機に設置した酒袋の出口側からポンプで注入し、醪投入入り口から溢れるまで注入します。その後2~3日間放置し、流水でよくすすいだ後、圧搾を開始して下さい。そうしますと、袋香が発生する事なく日本酒を製造する事ができるようになります。特に初槽の時期の袋香対策には目をみはる効果を発揮いたします。

塩素系殺菌消毒剤の多様化


ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い食品に使用可能な殺菌消毒剤は多様な進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は新規食品添加物として認可を受けた新しい殺菌剤であり、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、これが塩素殺菌後の臭気を発生させずに殺菌する事に繋がり、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。
そしてこれらの殺菌消毒技術は様々な環境で活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待され、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。


「亜塩素酸水」を主たる有効成分とした殺菌料であり、食品添加物のみで構成されています。有機物存在下でも高い殺菌効果を示す一方、金属や布を傷めにくい性質を持っています

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