2018年1月5日金曜日

「食品表示法」食品表示基準に基づく食品及び添加物の表示について (2)



食品表示基準と旧表示制度の変更点

 前号において、平成27年04月01日の施行された「食品表示法」食品表示基準に定められているルールの中から、旧食品表示制度から変更されている主な内容として、右表に記載しているうちの、①「製造所固有記号の使用方法」、②「原材料名表示」、③「アレルゲン表示」に係るルールの変更について取り上げさせて頂きました。そこで、本号においては引き続き、④「栄養表示成分の義務化」、⑧「表示可能面積が小さい食品の表示」及び、⑨「販売される添加物の表示」に係るルールの変更点について取りまとめると共に、食品業界における表示に係る取組みについて、紹介させて頂きます。

栄養成分表示の義務化

 栄養成分及び熱量の表示については、原則として、予め包装された全ての一般消費者向け加工食品及び添加物への表示が義務化されました。そして、食品表示基準では、栄養成分及び熱量を、「義務表示成分」、「推奨表示成分」及び「任意表示成分」の3つに区分し規定しています。
 尚、今現在は生鮮食品、業務用加工食品及び添加物については、本表示の義務はなく、任意で栄養成分及び熱量を表示することは出来ますが、その場合は、食品表示基準に規定されている方法で表示しなければなりません。


 
表示可能面積が小さい食品の表示に係るルールの変更

 食品表示基準では、これまで表示可能面積がおおむね30cm²以下だった場合に省略可能であった項目のうち、①「名称」、②「保存方法」、③「消費期限又は賞味期限」、④「食品関連事業者(表示責任者)の氏名又は名称及び住所」等の下記①~⑥迄の項目は新たに省略する事は出来なくなりました。よって、表示可能面積が30cm²以下の場合であっても、下記の①~⑥迄の項目については、必ず表示しなければなりません。

添加物の表示に係るルールの変更

 食品表示基準では、一般消費者向けに販売される添加物について、新たに「内容量」と、「食品関連事業者(表示責任者)の氏名又は名称及び住所」の表示を、全ての添加物を対象に表示するよう義務化されました。又、あわせて業務用添加物についても、新たに「食品関連事業者(表示責任者)の氏名又は名称及び住所」の表示を、全ての添加物を対象に表示するよう義務化されました。















食品業界の表示に係る取り組み

①賞味期限の「年月表示化」
 通常、食品の消費期限や賞味期限は、「年月日」で表示されなければなりませんが、賞味期限を表示すべき食品のうち、製造日から賞味期限までの期間が3ヶ月を超えるものについては、「年月」で表示することが認められています。
 尚、この賞味期限の「年月」表示については、すでに大手総合スーパーや加工食品メーカー及び飲料水メーカー等において、その賞味期限が1年以上の商品を対象に、「年月日」表示から「年月」表示への切り替えが進められており、この賞味期限の年月表示化については、日本政府が進めている国内における食品ロス削減に係る取組みの1つとして、関係省庁も推奨している状況です。
 この事から、今後、この賞味期限の「年月」表示化については、食品業界全体に広がり、ますます切り替えが進んでいくものと予測されます。

②添加物のラベリング管理
 現在、殆どの食品メーカーでは、異物混入対策から、段ボール等の容器包装を製造現場内に持ち込むことを禁止している場合が一般的であり、入荷時に段ボール等の包装容器に入っている添加物についても、中身を取り出し、内装の容器や小袋等の状態で現場内へ持ち込んで使用されたのち保管されています。このため、内装の容器や小袋等が無地の場合、中身が何の添加物であるのか?使用期限内のものなのか?等の判別がつかず、誤投入の原因や、使用期限の切れたものを使用する等の危害要因に繋がってしまう事から、現場内に持ち込まれる状態の容器包装が無地の場合には、「商品名」、「lot№」、「開封日」、「使用期限(又は廃棄日)」等を入荷段階でラベリングした上で、管理されています。
 しかしながら、自社でラベリングを行った場合、貼り間違い等のリスクが生じてしまう事から、昨今では、内装容器に、表示されていない添加物については、メーカー側に対して、表示を促し改善して貰う場合が増えています。又、この添加物のラベリング管理方法は、納品先様から要求される管理事項の一つになっているのが実状です。


まとめ

 食品表示法の経過措置期間は、加工食品及び添加物ともに、平成32年03月末迄であります。今後、新基準に基づく表示にスムーズに切り替えて頂くためにも、今一度、「食品表示基準」を再確認され、自社製品の表示の見直しや、切り替えを順次進められては如何でしょうか。そして法律とは別に食品業界では、食品及び添加物の表示に係る取組みが進められており、法律に準拠した上で、賞味期限の年月表示への変更や、内装容器に表示を加えた製品の納品要望が、今後、随時求められてくるのではないかと考えています。

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2017年12月29日金曜日

「食品表示法」食品表示基準に基づく食品及び添加物の表示について (1)


食品の表示に係わる法律
 これまで食品及び添加物の表示については、食品衛生法、JAS法、健康増進法等の複数の法律により定められており、非常に複雑なものでありましたが、新たに平成27年04月01日に「食品表示法」が施行され、これまでの三つの法律の食品の表示に係わる規定が一元化されました。(但し、具体的な表示のルールは「食品表示基準」で定められています。)


旧制度からの主な変更点
  この新しい「食品表示法」では、旧食品表示制度から、主に下記の点が変更になっています。そこで、本号では、下記記載の①~③迄の項目についてまとめ、お知らせさせて頂くことにします。


製造所固有記号の使用方法に係るルールの変更
 製造所固有記号については、一般消費者向けに販売される加工食品及び添加物は、原則として同一製品を2つ以上の工場で、製造される場合に限り、使用可能という形になり、1箇所の工場で製造される場合には使用出来なくなりました。又、使用する場合には、新たに消費者からの問い合わせに対する応答義務が課せられ、右表「※製造所固有記号を使用する場合に表示が必要な事項」の1)~3)いずれかの項目を表示しなければなりません。一方、業務用加工食品及び添加物については、従来通り、同一製品を2つ以上の工場で製造していなくても使用可能であり、応答義務もありません。但し、いずれも新制度に基づく製造所固有記号の取得が必要であり、新制度に基づき取得した記号は、旧制度の記号と区分するため、「+」を冠にして表示するというルールが適用されます。
 
 
 原材料名表示に係るルールの変更
 食品に添加物を使用した場合や使用した原材料に添加物が含まれる場合の原材料名の表示方法については、添加物と、それ以外の原材料がわかるように、「添加物」の項目名を設けて表示するなど、明確に区分して表示するようになりました。
又、これまで原材料を区分せずに重量順に表示することを定めていた「パン類」、「食用植物油脂」、「ドレッシング及びドレッシングタイプ調味料」、「風味調味料」についても、他の加工食品と同様に添加物と、それ以外の原材料を区分し、それぞれに占める重量の割合の高いものから順に表示することに統一されました。
更に、単に混合しただけなど、原材料の性状に大きな変化が無い「複合原材料(中間加工原材料)」については、それを構成する原材料を分割して表示することが新たに可能になりました。

 
アレルゲン表示に係るルールの変更
 加工食品及び添加物のアレルゲン表示については、これまでの「特定加工食品」及び「拡大表記」による表示方法が廃止され、特定原材料及び特定原材料に準ずるもの(以下、特定原材料等)を原材料として含んでいる場合は、原則として、個々の原材料名の直後に括弧書き(個別表示)をして特定原材料等を含む旨を表示することになりました。但し、例外的に原材料の直後にまとめて括弧書きする方法(一括表示)も認められています。
この一括表示を行う場合には、特定原材料等そのものが、原材料として表示されている場合や、代替表記で表示されているものを含め、当該食品に含まれる全ての特定原材料等について、原材料欄の最後に改めて表示する必要が生じます。
尚、個別表示と一括表示を組み合わせて使用することは出来ないことと定められています。





  まとめ
本号で紹介した表示ルールの変更点だけでも、多くの箇所が変更されています。この事から、今一度、「食品表示基準」を確認され、ルールを遵守し、適切に表示されているのかどうか確認されてみられては如何でしょうか。尚、次号も今回掲載できていない変更点について紹介させ頂きます。

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2017年11月20日月曜日

国内における有機食品の現状について


有機食品の国内需要

 米国や欧州を始めとする海外では、有機食品の愛好家が多く、一般的な食料品店の売り場には、ほぼ全ての品目に有機食品が陳列されており、いつでも有機食品を手軽に購入する事が出来ます。その一方で、日本国内では欧米諸国に比べますと、まだまだ有機食品の需要は少なく、生産量も少ない状態ですが、近年では健康志向の高い女性を中心に、有機農産物や有機加工食品を好んで購入される方も増加しており、専門店だけでなく、一般の食料品店やネット通販等でも、有機食品が販売されるケースが見られる様になって参りました。
 しかも、2020年に開催される東京オリパラ競技大会の期間中に選手団やサポートチームに提供される食事の調達基準の一つとして、GAP認証を受けた農産物のうち、国内の有機農業によって生産された有機農産物が推奨されるという事は決定しており、今後、日本国内においても、その需要は高まるのではないかと考えられています。

 

有機食品に係わる認定制度

 農林水産省では、有機食品に係わる認定制度として、有機JAS(日本農林規格)という規格を定めており、現在、この有機JAS規格は、生産方法に関する規格に該当しており、『有機農産物』、『有機加工食品』、『有機飼料』及び『有機畜産物』の4品目4規格が定められています。



有機食品に使用する事が出来る食品添加物(殺菌剤)

 通常、加工食品を製造する上では、食品衛生法で規定する「食品・添加物の規格基準」に基づき、各種食品類の原材料を殺菌する事や洗浄する事は認められていますが、有機JAS規格(日本農林規格)では、上記の内容とは別に、有機食品を製造する上で、その使用が認められている食品添加物と使用基準、そしてその重量の割合が5%以下というルールも定められています。(表3)












 この事から、有機JAS認証を受けた有機農産物や有機農産物加工食品の原料野菜の殺菌や洗浄に、食品添加物である次亜塩素酸Na溶液や、高度さらし粉、亜塩素酸水(きのこ類を除く)、亜塩素酸Na溶液(生食用野菜類に限る)、過酢酸製剤は使用出来ず、有機酸溶液等の使用も認められていないのが実状のようです。又、次亜塩素酸水も、次亜塩素酸Naに各種酸を加えた次亜塩素酸Na調整液は使用出来ないと明記されています。


まとめ
 昨今、日本国内においても各種有機食品の需要は少しずつではありますが、高まりつつあり、その内の有機農産物に関しましては、2020年に開催される東京オリパラ競技大会で提供される農産物の調達基準の推奨項目の一つとして明記されています。従いまして、今後はこれら有機農産物を始めとする有機食品の需要がますます増加していくであろうと予測されています。
 しかしながら、この有機食品を製造し、市場に流通させる為には、農林水産省が定めている有機JAS規格(日本農林規格)の認証を取得する必要があり、この有機JAS規格には、様々な制約があります。その中で食品添加物に関しましては、食品衛生法上で認められている物質の中から使用出来る食品添加物と、その使用制限が細かく規定されており、塩素系殺菌剤に関しましては、一般的な食品原材料の殺菌処理剤として、多くの方々が利用されている次亜塩素酸Naすら、この有機農産物の殺菌には、使用する事は出来ず、動物の腸の消毒若しくは卵の洗浄用に限り、その使用が認められています。その為、有機食品を加工されている食品メーカー様では、有機農産物専用の生産ラインを設置したり、唯一使用が認められているオゾン若しくは食塩水を電気分解した次亜塩素酸水の生成装置を導入する等、様々な設備を投資され、製造されておられます。しかし、これら有機農産物の原料殺菌に使用可能なオゾンや次亜塩素酸水に関しましては、有機物(汚れや野菜のエキス)が多く存在している環境下では、十分な殺菌効果が得られない場合が多く、取引先様や自社で定められている微生物規格を遵守する事も出来ない場合が多々あるというのが実態の様です。しかも、有機農産物は慣行野菜とは違い、牛糞や鶏糞等を利用した有機発酵肥料で栽培される為、この堆肥由来の病原微生物に汚染されている可能性が高く、もし仮に殺菌不足により、有機農産物にこの病原微生物が付着したまま製造された有機加工食品が市場に流通してしまいますと、大きな食中毒事故に繋がる危険性があります。従いまして、有機農産物並びに、この有機農産物を原料に用いた有機加工食品の製造を行う上で、原料野菜の殺菌処理や洗浄処理は重要なポイントであり、又、汚れていたり、汚れが取れにくい現場という環境下でも殺菌効果を享受して頂くこと、尚且つ次亜塩素酸水と同じ食塩を電気分解する事で得られる亜塩素酸水の使用は、むしろ啓蒙されるべきであり、何よりも有機農産物は慣行野菜よりも衛生的でなければならないと考えます。そして、その為には、安全・安心な有機農産物を用いて有機食品を加工する事が出来る法整備が今こそ、必要なのではないでしょうか?

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2017年10月5日木曜日

腸管出血性大腸菌による食中毒について



腸管出血性大腸菌による食中毒が流行中


8月中旬に埼玉県や群馬県の同系列の総菜店で販売されていたサラダ類を摂取した方々が、腸管出血性大腸菌O157に感染するという集団食中毒が発生しました。そして、この集団食中毒は、日を追う毎に感染者数が増加し、この内、同店の炒め物を食べられた3歳の女児が『溶血性尿毒症症候群(HUS)』を発症し、今月に入り亡くなってしまうという悲しく悲惨な事故に繋がってしまいました。
又、この事例とは別に全国の焼肉店や、レストラン、居酒屋などの飲食店でも腸管出血性大腸菌の内のO157を原因物質とする食中毒事故が、相次いで発生しており、テレビやインターネット等で連日報道されています。<表1> 
この腸管出血性大腸菌類による集団食中毒については、過去から、度々発生しており、1996年に岡山県や大阪府の学校給食で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒や、2011年に、富山県、福井県、神奈川県の焼肉チェーン店のユッケ等で発生した腸管出血性大腸菌O111による集団食中毒。更には2012年と、2014年に北海道や静岡県等で発生した浅漬けや、2016年には静岡県の食品会社で製造された冷凍メンチカツで発生した腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒で、多くの人が感染し死者も出たという食中毒事故は記憶に新しいニュースであります。


食中毒を引き起こす病原性大腸菌

大腸菌は、腸内細菌としてヒトや動物の腸管内に常在し、土壌や水などの自然界に広く分布しています。そして、その多くは病原性を保有していません。しかし、一部の大腸菌は、病原性大腸菌と称されており、食中毒や急性胃腸炎の原因物質になっています。又、腸管出血性大腸菌による食中毒は、汚染食品を摂取し、腸管内で感染・増殖することで引き起こされる感染型食中毒であり、病気の発症(発病)の仕方によって5種類に分類され、又、3類感染症としても指定されています。

①腸管侵入性大腸菌(EIEC)
大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層に糜爛(びらん)と潰瘍を形成する結果、発熱を伴った赤痢様の激しい症状を引き起こします。

②腸管毒素原性大腸菌(ETEC)
小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生する結果、発熱を伴った腹痛と水溶性の下痢を引き起こします。

③腸管出血性大腸菌(EHEC)
ベロ毒素を産生し、発熱を伴った激しい腹痛、水溶性の下痢、血便などを引き起こします。特に小児および高齢者では、溶血性尿毒症や脳症を引き起こします。

④腸管病原性大腸菌(EPEC)
小腸に感染して腸炎等を引き起こします。

⑤腸管凝集接着性大腸菌(EAEC)
主として熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く小児などの下痢の原因菌となります。わが国ではまだ殆どこの菌による患者発生の報告はありません。
 これら病原性大腸菌のうち、国内で発生している食中毒の多くは、③腸管出血性大腸菌(EHEC)によるものですが、血清型により分類され、その代表的なものはO157で、その他にO26、O111、O145などが知られています。


腸管出血性大腸菌O157の特徴

腸管出血性大腸菌O157は、家畜(牛、豚、羊)の腸管内に腸内細菌として生息しており、家畜の解体処理時に腸管を傷つけてしまった場合に、腸管内容物が食肉に付着し、汚染の原因になったり、ヒトまたは家畜の糞便によって、水(井戸水など)や土壌が汚染され、それらを用いて栽培された野菜などが汚染されたり、これら本菌に汚染された食品を十分な加熱や薬剤による殺菌処理も施さずに、摂取することで感染し、食中毒を発症する事に繋がります。又、他にも患者や健康保菌者の糞便からも、ヒトの手指を介して経口感染したり、二次的に汚染された食品を摂取する場合でも感染し、発症すると言われています。

 

食材は十分な洗浄と殺菌を!!

①食肉は中心部を75℃で1分以上加熱する。
②生食用の野菜類や果実は、良く洗浄を行い、高齢者や若齢者に食事を提供する場合は、次亜塩素酸ナトリウム等(亜塩素酸水、亜塩素酸ナトリウム溶液、過酢酸製剤、次亜塩素酸水並びに食品添加物として使用出来る有機酸溶液)で殺菌処理する。

二次汚染対策の徹底を!!

 
①必ず流水・石けんによる手洗いを2回行い、消毒用アルコールをかけて手指の消毒を行う。(作業開始前、汚染区から非汚染区への移動時、食品に触れる作業直前、生肉や魚介類、卵殻等に触れたあとに、他の食品に触れる場合)

②使い捨て手袋は都度々交換する。(手指の洗浄・消毒と同タイミング)

③包丁やまな板等の器具・容器やシンク等は食品・用途別に区分けして、使用する。(下処理用:魚介類、食肉類、野菜類。調理用:加熱調理済み、生食野菜用、生食魚介類用に区分け)

④食材の下処理は汚染作業区域で確実に行い、非汚染区域を汚染させない。(交差汚染を防止する)

⑤調理で使用した器具・機械・容器等は、良く洗浄したのち、85℃で5分以上の加熱又は、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水等)やエタノール系の消毒剤で十分殺菌してから乾燥させる。

⑥ドアノブ等のヒトの手指が触れる設備やトイレは業務開始前、業務中及び業務終了後に、定期的に、清掃と消毒剤による消毒を行うこと。

まとめ
 腸管出血性大腸菌O157は10~100個という少ない菌量でも感染し、食中毒を発症します。その為、調理器具類や設備類、施設内のドアノブや取っ手等、人が多く触れる箇所に、僅かでも本菌が付着していると、作業者や調理従業者の手指が汚染され、これが結果として食品に移行し、この食品を摂取する事で感染してしまいます。然るに単純に消毒しているから大丈夫というのではなく、適切な洗浄や除菌処理が必要な場所や物に必要に応じて講じられていなければ、効果が発揮される事も、感染を防止する事も、食中毒が収まる事もありません。しかも近年では、化学肥料ではなく、牛糞や鶏糞等を利用した有機発酵肥料で栽培された農産物の販売や、これら有機農産物を用いた加工食品の製造も増加傾向にあり、糞便由来の本菌を含む病原性大腸菌に汚染された野菜や果物が入荷してくる可能性も高まりつつあり、これを洗浄もせず殺菌処理も施さず、そのまま摂取する事は、非常に危険な行為だと言わざるをえません。そこで、これら腸管出血性大腸菌を含む病原微生物類による食中毒事故を、未然に防ぐ為にも、『大量調理施設衛生管理マニュアル』や、これに伴う関連法令や、規範等の内容を、大規模な食品加工施設だけに留めず、今回、食中毒事故が発生したバックヤードを保有している食品販売店や、飲食店の厨房等の中小規模の施設にも適用されるべきであり、食品を取り扱い提供している全ての施設で、原材料の洗浄と殺菌処理を奨励すると共に、器具・機材類や、施設・設備等の洗浄と除菌処理の強化と、二次汚染対策には、塩素系消毒剤による除菌処理の重要性をもっと強く訴えるべきだと考えています。そして、これから迎える冬場でも食中毒は発生します。だからこそ今、更なる衛生管理体制の強化を図られては如何でしょうか?

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2017年8月24日木曜日

ノロウイルス食中毒・感染性胃腸炎について




ノロウイルスによる集団感染
2017年8月4日~13日の10日間の日程でイギリスのロンドンでは、世界陸上競技選手権大会が開催されており、連日テレビで中継されていますが、この大会中に、各国の選手団が宿泊している公式ホテルの一つで、胃腸炎などの体調不良者が続出し、症状を訴えている人々は、約50名にものぼり、そのうち数名からノロウイルスが確認されているという報告がありました。

ノロウイルスについて
ノロウイルスとは、遺伝子として一本鎖RNAを持ち、エンベローブを有さないRNAウイルスであり、このノロウイルスを起因とする食中毒や感染性胃腸炎は、一年を通して発生し、特に冬季(10月~3月)に多発しています。尚、ノロウイルスは人の手指や食品を介して経口で感染し、ヒトの腸内で増殖します。症状としては、おう吐、下痢、腹痛などを引き起こし、健康な人であれば、2~3日で快方に向かいますが、子供や高齢者などでは重篤化したり、吐物を気道に詰まらせて死亡する事もあります。又、ノロウイルスはワクチンがなく、治療方法も輸血などの対症療法に限られているのが実情です。
ノロウイルスは感染後、凡そ1~2日の潜伏期の後に発症し、2~3日で回復に向かいますが、小児では3週間以上、成人では2~3週間に渡り、糞便にはこのノロウイルスが潜伏したままの状態で排出されます。
尚、摂取してから、15時間後には発症前であっても感染した人の糞便に含まれているノロウイルスが排出され始め、摂取後1~3日後にこの排出のピークが見られると言われています。しかも、無症候性保菌者も多く、十分な注意が必要です。


食中毒と感染性胃腸炎の違い
ノロウイルスによる「食中毒」と「感染性胃腸炎」の違いは、どちらもノロウイルスに感染した事を意味していますが、関係する法律の定義の違いによって分類されています。
尚、その取り扱いについては、ウイルスに汚染された食品を摂取する場合には「食中毒」、それ以外の原因で発症したものは「感染性胃腸炎」として扱われます。

まとめ
ノロウイルスを起因とする食中毒や感染症は、毎年、拡大傾向にあり、その対策として、厚生労働省におきましても、平成28年度には、国立医薬品食品衛生研究所において作成された「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書(平成27年度)」を参考資料として、「大量調理施設衛生管理マニュアル」を改定し、この際、調理機械、調理台、調理器具類などは、ノロウイルスに対する不活化効果を期待することが出来る薬剤を選定し使用することや、十分な洗浄が困難な器具類については、有機物存在下でも不活化効果を期待することが出来る、亜塩素酸水又は次亜塩素酸ナトリウム等で浸漬処理し、消毒すること。と明確に記されており、つい先月も、このノロウイルス対策に係る項目が新たに追加・変更され、食品に携わる施設や調理従業者に対する衛生管理の強化と、その徹底が指導されています。
 尚、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会も控えており、今回、イギリスで開催された世界陸上競技大会で発生したノロウイルスによる集団感染のような事態を引き起こさない為にも、更なる強化が図られるであろうと予測されます。
そしてまた今年度も、このノロウイルスの流行シーズンが近づいてきています。貴施設の日頃の衛生管理方法や、緊急時の対応方法を、今一度見直され、ノロウイルスを起因とした食中毒や感染症を発生させない管理体制を、これまで以上に、強化された方が良いのではないでしょうか?







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「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成29年6月16日付)」の改正について





平成29年06月16日付けで「大量調理施設衛生管理マニュアル」が改正されました。
本マニュアルについては、平成28年07月にも、ノロウイルス食中毒事故に対する措置案として大幅な改正が行われましたが、先般の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会において、平成28年度の食中毒発生状況を踏まえ、ノロウイルス対策並びに腸管出血性大腸菌対策に関する議論がなされ、調理従業者等の健康状態の確認に関する重要性が指摘された事によって、新しく改正されることになりました。

今回改正された背景
平成28年度に東京都及び千葉県の老人ホームにおいて合計10名が死亡する腸管出血性大腸菌O-157による食中毒が発生し、関係自治体による調査の結果、未加熱の野菜調理品(きゅうりのゆかり和え)が原因食品であると判明し、この事により、高齢者や若齢者等の抵抗力が弱い方々に、野菜及び果物を加熱せず提供する場合には(表皮を除去する場合を除く。)殺菌処理を施す必要があると定められました。
また、平成29年02月に、きざみのりを原因食品とする大規模なノロウイルス食中毒が発生し、乾物や摂取量が少ない食品も含めて、製造加工業者には、調理従事者の健康状態の問診確認と、その記録の保管に関するノロウイルス対策を適切に行う事が定められました。

主な改正箇所について
今回の改正によって、本マニュアル内に新たに追記もしくは変更された箇所としましては、大きく「原材料の受入れ・下処理段階における管理」に係る改正と、「調理従業者の衛生管理」に係る改正であります。

【原材料の受入れ・下処理段階における管理に係る改正】
①「加熱せずに喫食する食品(乾物や摂取量が少ない食品を含む)を原材料として、受入れる場合は、製造加工業者の衛生管理体制を確認すること。特にノロウイルス対策を適切に行っているのかを確認すること。」と新たに明記されました。

②「高齢者、若齢者及び抵抗力の弱い物を対象とした食事を提供する施設で、野菜及び果物を加熱せずに供する場合(表皮を除去する場合を除く)殺菌すること。」と対象施設が新たに明記されました。

【調理従業者等の衛生管理に係る改正】
①「調理従業者等は、毎日作業開始前に、自らの健康状態を衛生管理者に報告し、衛生管理者はその結果を報告すること。」と新たに明記されました。

②「調理従業者等は臨時従業員も含め、10月から3月までの間には、月に1回以上、又は必要に応じてノロウイルスの検便検査に努めること。」と新たに検便の期間と頻度が明記されました。

③「ノロウイルスの無症状病原体保有者である事が判明した調理従業者は、検便検査においてノロウイルスを保有していない事が確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な措置を取ることが望ましいこと。」と新たに発病に至らない感染が判明した場合の対応が明記されました。

④「これまでノロウイルスの検査に当たっては、リアルタイムPCR法等の高感度の検便検査を実施し、保有の有無を確認する事」とされていましたが、「遺伝子型によらず、概ね1g当たり105オーダーのノロウイルスを検出出来る検査法を用いる事が望ましい。」と変更になりました。


「大量調理施設衛生管理マニュアル」に記載されている野菜・果物の殺菌洗浄方法」
現在、「大量調理施設衛生管理マニュアル」(別添2:標準作業書)(原材料等の保管管理マニュアル)で記載されている野菜・果物の殺菌洗浄方法と、殺菌時に使用することが出来る薬剤は表の通りであります。

【処理方法】
①流水で3回以上水洗いする。
②必要に応じて、次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌※した後、流水で十分水洗いする。
③水切りする。
④専用のまな板、包丁でカットする。
⑤清潔な容器に入れる。
⑥清潔なシートで覆い(容器がふた付の場合は除く)、調理まで30分以上を要する場合には、10℃以下で冷蔵保存する。
※水洗い前の工程は省略しています。

【殺菌で使用可能な薬剤】
・次亜塩素酸ナトリウム溶液 (200mg/ℓで5分間又は100mg/ℓで10分間)
・亜塩素酸水(きのこ類を除く)
・亜塩素酸ナトリウム溶液(生食用野菜に限る)
・過酢酸製剤
・次亜塩素酸水
・食品添加物として使用出来る有機酸溶液
※これらを使用する場合、食品衛生法で規定する「食品、添加物の規格基準」を遵守すること。

 
まとめ
「大量調理施設衛生管理マニュアル」は、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上を提供する大量調理施設に適用される規定ですが、それ以外の中規模、小規模の調理施設でも、また、加熱せずに喫食することを前提にしているカット野菜やカット果物等を加工する施設においても、また他にも、生野菜を原料とする浅漬け等、漬物類を製造・加工している施設でも、同マニュアルの趣旨を踏まえた上で衛生状態を管理するように指導されています。
 従いまして、食品の製造及び提供されます企業様におかれましては、今後も最新のマニュアルに注意され、本マニュアルにできる限り準拠した上で、施設内で取り扱われる原材料の保管や施設内の衛生管理、並びに調理従事者等の健康管理の徹底を図られ、引き続き、食中毒の発生防止対策の強化を図られます様、切にお願い申し上げます。

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2017年7月6日木曜日

カット野菜及びカットフルーツ類の酵素的褐変と制御について


カット野菜及びカットフルーツ類の「酵素的褐変」
食品の褐変には、酵素の作用によって発生する「酵素的褐変」と、「非酵素(化学)的褐変」があります。リンゴやレタスをカットして放置しておくとカット断面が茶色や赤色に変化する現象が「酵素的褐変」であり、マグロの刺身や牛肉の色調が徐々に黒ずむ現象や、糖類の加熱によるカラメル化反応やメイラード反応が「非酵素(化学)的褐変」と呼ばれています。特に近年ではカット野菜やカットフルーツ類の需要が急増しており、これら製品の流通販売中に、「酵素的褐変」が発生すると、見栄えを著しく低下させてしまう為、この現象を如何に制御するのかが大きな課題となっています。
酵素的褐変の発生メカニズムは、野菜や果物に含まれるフェノール類(ポリフェノール)が、ポリフェノールオキシターゼ(フェノール類を酸化させる酵素)によって酸化され、キノン類を生成し、この酸化により生成されたキノン類が重合する事で、褐色色素を生成し、発生します。<図1>
尚、このフェノール類とポリフェノールオキシターゼは局在性があり、通常の生体内では接触する事がなく褐色反応は起こりません。但し、カットや潰すなどの調理加工を施したり、栽培中に虫や鳥が傷つける等によって、植物細胞が破壊され互いが接触し、褐変反応が始まります。<図2>
又、酵素的褐変は、リンゴのように直ぐに褐変する即時型と、カットレタスの様に褐変に数日掛かる遅延型が存在し、この違いは組織内のポリフェノール量に起因します。そのため遅行型のレタスでは、元々含有量の少ないポリフェノール類が保存期間中に新たに生合成され、これがポリフェノールオキシターゼの酸化力によって褐色します。
尚、野菜及び果物中に多く存在している基質は、カテキン類、クロロゲン酸類であり、アミノ酸であるチロシンも基質となります。
リンゴに含まれる主要なポリフェノールは、クロロゲン酸であり、200mg/100g程度存在している様です。又、レタスはクロロゲン酸の他にコーヒー酸と酒石酸がエステル結合したチコリ酸も多く含まれている様です。





カットレタスの褐変
カットレタスの保存期間中の褐変現象については、レタス中には、僅かしかポリフェノール類は存在していません。しかしながら、カット等処理することで、レタスが傷害誘導反応を起こし、酵素の活性が進んでしまいます。この活性した酵素により、ポリフェノール類が誘導的に合成され、この生成したポリフェノール類が、次々にポリフェノールオキシターゼによって酸化され、褐変反応が発生すると言われています。このためカットレタスの褐変現象には、新たなポリフェノール類の生合成が必要となります。この事から、カットレタスを含む遅延型の酵素的褐変を制御するためには、生合成されるポリフェノールを増やさない事が必要になります。


酵素的褐変の制御方法
この酵素的褐変を防止する方法として、<参考2>の様な手段があります。
但し、加熱するなど、野菜や果物をカットし、生のまま流通販売する製品類では導入する事そのものが非現実的な方法も多く、最終製品に適した手段を検討して頂く必要があります。


塩素酸化物による酵素失活作用
次亜塩素酸ナトリウムを始めとした塩素酸化物は、その酸化力により、タンパク質を変性させる力を持ち、多くの酵素はタンパク質を基に構成されているため、塩素酸化物による殺菌処理を施して頂く事で、同時に酵素活性を失活させる事ができます<図3>。但し、カットレタスの褐変反応の原因である酵素を失活させるために、単純に次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水などの希釈液に浸漬処理するという方法では効果が得られにくく、ある一定の塩素濃度や接触時間が必要であり、その条件次第では塩素臭味の付着や、浸漬処理を行うことによる、葉の萎れやべたつき等と言う弊害も発生しやすくなるので、十分な注意が必要です。


まとめ
近年カット野菜やカットフルーツ類の需要が増加していますが、製品の流通販売中に酵素的褐変が発生し、見栄えを著しく低下させてしまう為、この現象を制御する事が一つの課題になっています。
 また、この酵素的褐変は、野菜や果物中に含まれているフェノール類が、カット処理などを行い植物細胞が破壊される事で、同じく野菜や果物中に含まれるポリフェノールオキシターゼ(酵素)と接触し、酸化する事で発生する現象であり、この褐変現象の制御方法として、「酵素を失活させる」、「酵素反応を抑える」、「酸素を除く」、「還元剤や酵素阻害剤を使用する」などの手段があります。
 しかしながら、カット野菜や果物に対して使用可能な手段として適切なものは少なく、これら最終製品に適した制御方法を選択して頂く必要があります。又、同時にカット野菜やカットフルーツ類の流通保存状況を考えた場合、微生物制御も考慮しておかなくてはなりません。
従いまして、今後は食品加工会社だけでなく、街の飲食店などもHACCPの導入が義務化され、ますますカット野菜やカットフルーツ類の需要が増加する可能性を秘めています。この事に伴い、遠方への販路拡大や賞味期限の延長などを検討される際の酵素的褐変を制御する手段の一つとして、塩素酸化物の酵素失活作用を利用した方法について、一度検討されてみられるのはいかがでしょうか?

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